TPP大翼賛報道が国の針路を誤らせる

篠原孝

2013年03月07日 15:36

3/2(土)、私は昨年同様にほとんど誰もいない議員会館で、しこしことペンを走らせている。

昨年は禁(政治家の間は本は書かない)を破って、「TPPはいらない」「原発廃止で世代責任を果たす」を執筆中だった。気分を害す同僚議員がいるかもしれないが、私は何よりも、日本の将来を危うくするTPPと原発について、同僚議員にこそ勉強してもらいたかった。

だからいわゆる「励ます会」を初めて開き、お土産に本を持ち帰ってもらった。2冊となると3,200円、大半は招待で来てもらっているのでケチかもしれないが1冊にしてもらった。

ところが、古い本を含め5冊持ち帰った猛者もいるという。ちゃんと読んでいてくれるなら私のかいた汗も報われるのだが、どうも耳学問だけが得意なのが国会議員、どこかの本棚に死蔵されていると思うと力が抜けてくる。

2月上旬、民主党の再生のために年末の選挙総括を11回のシリーズでまとめたが、その間に安倍政権で、TPPの拙速な参加への動きがあったため、短いレポートとした形で数回連続して発信していくことにする。

そして、その準備のため、長野のTPP交渉参加反対の大集会の後帰京し、会館で1人仕事をし始めている。地元の有権者との対話の機会が少なくなるが、秘書のいう「うちの代議士は全国区(?)」であり、TPPの行方を固唾を呑んで見守っている人たちのために。シリーズブログをお届けすることにした。

TPP大翼賛報道が国の針路を誤らせる


戦前、政界は大政翼賛会となり、マスコミもこぞって戦争を美化し、新聞・ラジオも大本営発表の翼賛報道一色になってしまった。

そしてそれが日本国民を戦争に駆り立て、日本国民の不幸を増大することになった。翼賛報道がいかに滑稽かは、北朝鮮の国営TVのあの元気のいいおばさんアナウンサーの喋り口をみるとよくわかる。

北朝鮮の人々は、あの報道でミサイル発射も核実験の成功もまじめに喜び、アメリカを悪の帝国と思っているのだ。

原発絶対安全神話も翼賛報道の典型例


今の日本は報道の自由があり、そんなことは全くないと思っている人が大半だと思うが、実は残念ながら我が日本国では今も全く同じことが繰り返されている。

長く続いたことでいえば、原発安全神話であり、原子力ムラの言うことを鵜呑みにし、特に読売新聞などは、社主正力松太郎のテコ入れにより、ずっと原発推進の提灯記事を書き続けてきた。

そしてあの福島第一原発事故のあとも、まだその姿勢がかわらないでいる。完全に社会の木鐸の役目を放棄してしまっている。悲しいことに、TPPについても全く同じことが言える。いやもっとひどい偏向報道がなされている。

見苦しいTPP礼賛偏向報道


今原発については、東京新聞は大反対、朝日と毎日は脱原発支持:そして読売・サンケイ・日経が原発推進と分かれているのに対し、TPPについては、2010年秋以来、5大紙は理由もなくこぞって推進一辺倒なのだ。

菅直人首相が10月1日に唐突にTPPを言い出した時に、全紙がそれこそ盲目的にTPP礼賛を続けている。今も内容が定かでないが、2年前にはもっと何物かわからなかったし、数紙は「太平洋版FTA」と称しつつ鎖国が開国という通俗的なスローガンだけで、推進し続けている。

今はその雛形の米韓FTAの内容が明らかになり、その危険性も徐々に理解されつつある。それにもかかわらず、2月23日から24日にかけての各紙は安倍首相がオバマ大統領との2国間会談で大妥協をとつけたかのごとく翼賛報道である。

東京新聞と地方紙がこれとは真逆の論を展開しており、この点が戦前の報道よりより少しましかもしれない。毎日新聞だけが、24日に「関税に「聖域」に代償」と少々批判めいた見出しにしているのが、私からするとせめてもの救いである。

日米の報道の温度差


さて、この交渉始める前の異例の共同声明とやらの歴史的成果は、もう一方の当事国アメリカでは、どう報じられているのだろうか。

そもそも日本で大問題になっていてもアメリカではごく小さくしか扱われないことが多い。逆もある。例えばかつて軍用機FSX問題でアメリカの軍事技術の日本への流出は国会でも大問題になっていたが、日本では何も報じられておらず、逆に日本では連日米牛肉・柑橘の輸入自由化問題ばかりが報じられていた。日本国民の関心も重要度も大きく異なることが多い。

まず、「聖域なき関税化」は、eliminate tariffs with no sanctuaryと変な英語になっている。

そもそもそんな言い方は11ヶ国による本家のTPP交渉では使われていない。うがった見方をすれば、今日の妥協を演出するため、世論を誘導するために造り出された言葉にすぎない。そして、安倍首相に乗せられたマスコミが聖域をなくしたと大宣伝している。

私は、この開かれた(?)国で、こんなみえみえの茶番報道が許されていいのかと疑問を感じざるをえない。

NYタイムズの真逆の「建設的成果なし」の小見出し報道


アメリカの主要各紙は一応22日の日米首脳会議で報じているが、まず中国問題や米軍普天間基地移転等外交問題を中心に触れており、TPPは後のほう扱われているにすぎない。

ニューヨークタイムス(NYタイムズ)は、一応共同声明は紹介しつつ、「全ての物品が交渉の対象となる」ことに日米合意したことを伝えただけで、「具体的な結果は何も生じていない」(A meeting produces little in the way of concrete results)と言う小見出しまでつけている。

それどころかミシガン州のレビン下院議員(民主党、自動車議員と知られる)の「日本がTPP交渉に入る前に、日本の政策や習慣に確かな変化をもたらすものでなければならない」という注文発言を載せている。

冷たいアメリカの主要紙の報道


ファイナンシャルタイムズは、日米2国間会談に先立ち、アメリカの役人のコメント「他国が(センシティブ品目の関税を維持すると)同じような保証を求めてくる恐れがあることから、安倍は明白なものは何も得られないだろう」を引用し、更に安倍が何の拘束力もない(non-committal)声明をだらだらと説明する、とも予測した。

そしてほぼその通りに進んだ。

アメリカの貿易政策専門の情報誌US Trade Insideは、フォアマン(国家安全保障補佐官)がアメリカの自動車メーカー向けの市場アクセスの改善がなければ、日本は交渉に入れないと発言したこと、また、アメリカが日本のセンシティブ品目の例外扱いを許すかという問いには何も明確に答えなかったこと等、日本の報道とはかなり違うことをだけを報じている。

他の主要紙をみても、日本が浮かれているような解説はどこをみても見当たらない。

韓国の状況こそ詳細に報道すべし


私はまず米韓FTAで韓国がどうなるか3~5年ほど様子をみてから考えればよいと思っている。

多分韓国はあらゆる格差が拡大し相当ギスギスしてくるはずである。3月1日(金)に宋基昊(ソンギホ)弁護士は、資料としてありとあらゆる分野で何もかも法律改正が必要とされたことを指摘した。

日本のマスコミには、アメリカを「経済領土」とし、日本に先駆けて「先占」したというFTA大国・韓国の様子こそ詳細に報じ、日本がTPPに入るか入らないかの判断材料を国民に提供することが求められている。それを、いつもながらのアメリカ偏重のヨイショ記事だけでは、読者がネットに離れていくのは仕方あるまい

韓国には、全国紙が8紙ほどあり、ハンギョレ新聞、京郷新聞の2紙は米韓FTAに絶対反対の立場を貫いている。

前述の宋基昊弁護士は、谷岡郁子、舟山康江等が反TPP、脱原発で民主党を離党し、「みどりの風」結成したことも、これらの新聞で承知していた。ところが日本には、財界の肩を持つ新聞しか存在せず、韓国の動きをきちんと報ずる新聞が存在しない。この点では、韓国のマスコミのほうがずっと民主化されている

外へ拡大していくTPPを礼讃するのは、戦前日本が国際連盟から脱退し日独伊防共協定を結び、満州へそして中国・東南アジアへと進出するのと礼讃する論調とだぶってくる。マスコミは戦争拡大を煽り、ブレーキをかけられなかったのだ。日本のメディアにもっと冷静な客観的な報道を望むのは私だけではあるまい。