拓銀・山一破綻から20年=検証・金融危機

 北海道拓殖銀行と山一証券が相次いで破綻した1997年11月の金融危機から20年。80年代後半以降のバブルに踊り、その崩壊に翻弄(ほんろう)された当時の教訓は今に生かされているのか、新たな危機の芽はないのか。この20年の経過と現状を探った。
 (1)◇始まりは小さな債務不履行
 バブル期の異常な不動産投資で巨額の損失を抱えた銀行系列などの住宅金融専門会社(住専)処理が一段落し、金融システムの動揺が落ち着いたかに見えた97年11月。未曽有の危機は、金融機関同士が短期資金を融通し合うコール市場のわずかなほころびから始まった。
 同月3日、巨額の設備投資で経営が悪化していた準大手の三洋証券が、東京地裁に会社更生法の適用を申請。地裁の資産保全命令により、三洋に約10億円を無担保で貸し付けていた群馬県の信用金庫と83億円の信用供与を行っていた宮崎県の都城農協に対する支払い不能が生じた。
 この小さな債務不履行(デフォルト)が、コール市場で資金の出し手の不信感を増幅し、経営悪化がささやかれていた北海道拓殖銀行や山一証券の資金繰りが行き詰まる。北海道銀行や外資との合併話が不調に終わった拓銀は、三洋倒産から2週間後の17日に大手行で初めて経営破綻(などに営業譲渡)。巨額の簿外債務を抱えていた山一も24日、自主廃業に追い込まれた。
 金融システム不安は決済機能を持つ銀行特有の問題と考えられており、三洋倒産がシステムを揺るがす事態は想定されていなかった。「コール市場の問題がシステミックリスク(信用不安の連鎖)を招くという認識はなかった」と、金融当局で当時の危機に対応した関係者は振り返る
 あれから20年。金融破綻を未然に防ぐ公的資本注入や、破綻による金融・経済への大きな影響を避けるための一時国有化など、不安の連鎖を防ぐ仕組みは整った。しかし、国が抱える巨額の財政赤字を背景に日銀が大量の国債購入や大規模金融緩和を続ける中で、かつてと違った新たな「危機の芽」が静かに広がっている可能性を指摘する声も少なくない。
(2) ◇危機は本当に去ったのか
 「ある信金の理事長から聞いた話だが、地方銀行が東京に『空中店舗』を作り、不動産融資を盛んにやっているらしい」。こう話すのは、日銀出身で、預金者保護のため破綻金融機関に資金援助を行う預金保険機構の理事長を務めた田辺昌徳アクサ生命保険会長だ。
 空中店舗とは、1階に窓口がある通常の銀行店舗と違い、ビルの高層階などに設けられた融資専門のオフィス。「メガバンクも系列子会社がめちゃくちゃな不動産投資をやっている」と田辺氏は指摘する。
 経済成長や事業拡大に確信が持てず、多くの企業は前向きな投資に及び腰。こうした中、世界的な金融緩和でダブついた不動産マネーは株やに向かい、資産価格を押し上げる。日経平均株価は10月初めから過去最長の16営業日連続で上昇。国税庁が7月に発表した17年分の路線価(1月1日時点)でも、全国で最も高い東京・銀座の文具店「鳩居堂」前が、前年比26%上昇の1平方メートル当たり4032万円となり、バブル期の最高額3650万円を上回った。
 マンション価格も首都圏などで高止まりが続く。不動産経済研究所によると、9月の東京都区部の平均価格は前年同月比7.5%上昇の7361万円と庶民には「高根の花」。渋谷区代官山の高額物件などが好調という。
 10月初めから過去最長の16営業日連続で上昇を記録した日経平均株価は11月2日、前日比119円高の2万2539円と再び今年の最高値を更新した。日本の株高を支える大きな要因は、①ハイテク企業を中心とする米国株の上昇、➁そして日銀が黒田東彦総裁の下で進める大規模金融緩和に伴う円安・ドル高傾向の定着だ。
 安倍晋三首相が看板政策に掲げる「アベノミクス」の中核でもある日銀の大規模緩和は、「安定的な2%の物価上昇」という目標の達成時期を何度も先延ばしにしながら、円安による輸出企業などの業績改善を通じ、雇用拡大という効果をもたらしてきた。
 しかし、その陰でじわじわと進んでいるのが、銀行など金融機関の収益悪化という副作用だ。①日銀が大量の国債や上場投資信託(ETF)を購入して市場に出回る資金量を増やし、マイナス金利政策と合わせて長短金利を低位に抑える今の金融緩和は、預金・貸出金の金利差や国債運用で収益を確保してきた金融機関、特に人口減少の中で体力を失っている地方銀行の経営を圧迫する
(3) ◇追い詰められる地銀
 株価や東京都心の地価など資産価格が高騰し、地銀が東京で不動産融資に乗り出すような現象が見られても、バブル期のような過熱感は不思議とない。「それは地銀が追い詰められているからだ」と、日銀OBで預金保険機構理事長も務めた前出の田辺昌徳アクサ生命保険会長は解説する。
 人口減が進む中で、長短の金利差がわずかしかない状況が続き、利ざやが稼げない地銀や信用金庫、信用組合などの経営は「限界に近づいている」と田辺氏は話す。このまま低金利が続けば、2018年3月期決算で個別金融機関に危機の兆候が見え始め「お手上げのところが出てきてもおかしくない」と、地銀に詳しい別の日銀OBも危機感を隠さない。
 かつての破綻金融機関には、バブルに乗った過剰融資など何らかの落ち度があったが、今静かに進む地銀の危機は、誰かの明確な責任を問えるようなものではないところがやっかいだ。
(4) ◇信用不安連鎖も世界規模
 97年の金融危機では、三洋証券の倒産時に起きたコール市場での小さな債務不履行(デフォルト)が北海道拓殖銀行や山一証券の破綻に連鎖した。「今は世界の金融がそうなっている」と警告するのは、同じく日銀OBの安斎隆セブン銀行会長だ。
 98年に破綻した日本長期信用銀行が一時国有化された際、政府の要請で経営トップに就いた経歴を持つ安斎氏は、「危機はいつ、どこで起こるか分からない。過去の記録を正確に残して勉強しても新たな状況で役立つとは限らない」と指摘。その上で、危機対応の基本は「思い切った公的資金投入でまず事態を落ち着かせること。信用危機を抑えられるのは国家のトップだ」と強調する。
 日米欧の大規模金融緩和でだぶついた世界中の金は「ここ半年の間にアメリカに集まっている」と安斎氏。国内の運用難を背景に海外での運用を増やしている日本の大手金融機関が痛手を被るとすれば、ドルへの過度な資金シフトが進み、「世界のどこかでドル取引によるデフォルトが起きるときだ」と予測している。(2017/11/06-12:09)
◎先が見えているのだから、政府日銀は今の政策転換や新政策を早急に手をうたなければならない。日本発の世界的な経済危機がおこれば、日本経済への打撃はリーマンショックの状況では済まない。安倍政権の首が飛んでもなんの解決にもならない。いち早く手を打つことを望む、起こってからでは更に混乱は拡大するのみである。